ロゴスフィアの衛兵に囲まれ、
タオは白い城壁へと歩かされていた。
街の入口では人々が行き交い、
どこかで鐘の音が鳴る。
朝の雰囲気は穏やかで、むしろ美しい。
だが、タオの胸はざわついたままだ。
(さっきの人たち……言葉の細かい部分ばかり気にしていた。
この国では、それが当たり前なのか?)
広場から続く白い石の階段を登っていくと、
城門が姿を現した。
両脇には紋章が刻まれている。
円の内側に、整然と並ぶ文字列のような模様。
ロゴスフィアの“言語の紋章”だろう。
衛兵の一人が城門に向かって声をあげた。
「無詠唱者を発見。王へ面会を求める!」
城門の上から門番が鋭く返す。
「“求める”では不十分だ。
“面会の許可を要請する”が正しい!」
「……失礼。」
衛兵は表情ひとつ変えず言い直した。
「面会の許可を要請する!」
(やっぱり言葉にうるさすぎる……!)
タオの違和感は、もう確信の形を帯び始めていた。
門がゆっくりと開く。
白い城壁の中は、外よりも静かだった。
廊下は磨かれ、
壁には法文のような文が装飾として刻まれている。
まるで“言葉そのものが文化”として根づいている国だった。
やがて大きな扉の前に立つ。
衛兵が扉を押し開くと、
その奥には王が座っていた。
白銀の衣をまとい、
背筋はまっすぐ。
ただ立っているだけで
言葉の厳格さがにじみ出るような人物だった。
衛兵が片膝をつく。
「王よ。無詠唱者を発見し、連行いたしました。」
王はタオをじっと見つめた。
その視線は刺すように鋭いが、
怯えさせるよりも“観察している”印象があった。
「名は?」
「タオ……です。」
「タオ。
そなた、どのOSの者にも見えぬ。
魔力の流れすら奇妙だ。
いったいどこから来た?」
タオは口を開けかけたが、
言葉が詰まった。
(どこから来た……? 夢と現実の間みたいな答えしかない。)
「わかりません。」
それだけをなんとか口にする。
王は短く息を吐いた。
「ならば、試練を課す。
選ばれし者であるか否か、このロゴスフィアが判断する。」
王が手を上げると、宝物庫から紋章を持つ従者が現れた。
「北の洞窟に“言語石(ルーンストーン)”という秘宝がある。
古来より、言語OSの根源のひとつをなす石だ。」
王は続ける。
「それを持ち帰れ。
その間、語りを歪ませる魔物が出るが……
そなたの真価を知るには良い機会。」
タオは息をのんだ。
「……僕に戦えと言うんですか?」
すると衛兵の女性が一歩前に出る。
タオを捕らえた、あの凛とした目の衛兵――リタだ。
「私が同行します、王よ。
ロゴスフィアの衛兵として、任務を果たします。」
王は頷き、静かに言う。
「よかろう。
タオとともに、洞窟へ向かうがよい。」
リタはタオの横へ来て、小さく言った。
「ついてこい。逃げるなよ。」
タオは何も返せなかった。
逃げることなど考えられなかった。
城を出るとき、
遠くの空に雲が広がり始めていた。
試練の始まりを知らせるように。
こうしてタオは、
この世界で最初の重要な選択へと踏み出すことになった。

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